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火災実例鑑定報告書技術士大藪勲鑑定人趣意書原子力鑑定技術技術鑑定会2007

火災実例鑑定報告書

A.資料科学技術鑑定(結論) 

資料科学技術鑑定書の作成時点までに,*******組合 理事長 ****氏から提出された各種資料(下記参考公的資料,参考資料)を基に,本件火災の原因考察をする。

通常は火災現場の建物・機器の現物確認及び担当者との面談等を実施して科学技術鑑定書を作成する事が原則であるが,本件においては火災からの経過期間等の関係上,科学技術鑑定として必須な「火災現場の建物・機器の現物確認及び担当者との面談等」は実施困難であった為,提供資料のみに基づいて資料科学技術鑑定を行った。

1.火災原因の推定

結 論

事故の原因は二つに絞られる。其のいずれが実際に起こったかは断定することは出来ないが,出火場所についてはすべての情報と整合性を得た。
ケース1.
塗装室に設置されていた電灯線系統に接続されたエアードライヤー(塗装用スプレーガンに乾燥空気を送り込む為の空気乾燥機)のトラッキングによるコードの火がフロア-に燃え移り,近くに飛び散った塗料の残渣や近くにあった溶剤・塗料などに引火した。
塗装室の動力線系統分電盤での絶縁劣化等による過熱、漏電、発火の可能性も残る。
ケース2.
塗装室塗装ブース内に付着蓄積したウレタン塗料による自然発火,ないし着色用ステイン塗料のふき取りウエスの自然発火。
以上の事を、後述する第一報と第二報の事実に基づき確認した。塗装室で電気火災発生(塗装室のコンセントに接続されている電気器具、または塗装室内の電灯線の配電線等において,上記ケースの加熱→発火→漏電→火災が発生した)。そして電灯線系統の配線や接続された各電気器具が焼損し短絡を起こし,過電流ブレーカーがトリップし、電源喪失が生じたこと(第一報)、および、それ以前に、それらの火炎や火災で電灯線、動力線も漏電を起こし漏電電流が流れ検出器の設定時間以上流れたこと(第二報)が確認できた。

********の火災事故について,検証に用いた資料は

  1. 消防,警察による公的報告資料
  2. 目撃者,従業員による事故目撃証言
  3. 業務内容,配置図(火災延焼ルート解析)
  4. 事故後の写真(火災延焼ルート解析)
現場確認はしていない。

本件火災の特徴

本件は,発火から本格的火災までの時間がほぼ30分程度と,大変短いことが特徴的である。通常の木造家屋では,1時間程度の立ち上がり時間を必要とする場合が多いのであるが,今回は電気的な報告がなされてから,ごく短い時間で火炎が立ち上がっていることが認められる。 従って考えられる原因の中から,急速に燃え上がる条件を満たす発火メカニズムに絞られうる。条件を満たす発火原因は塗装室内発火がこの条件に該当する。
ケース1の詳細な説明
本件においてトラッキングを起こす可能性があった電気機器は,

1.冷蔵庫  2.コピー機  3.換気扇, 4.エアードライヤー,
5.石油ストーブ

である。

其のうち,コピー機は使用を中止しており,石油ストーブはシーズンオフで,両方ともコンセントは外してあった。換気扇はプラスターボードに取り付けてあり,トラッキングが起こっても発火延焼しにくい。
以上の理由により,冷蔵庫及びエアードライヤーが,火災の原因になりうる条件を備えている。すなわち両方とも,何年もの間コンセントを外していない上,両方ともコードが木製の床を這っている。

A 冷蔵庫がトラッキングを起こしたと仮定すると,
発生した炎は高いところを目指して階段方向へ渦を巻いて流れ,2階に延焼する。2階が初期段階で激しく燃えたことと整合する。同時に事務所入り口の床が完全に焼失していた事実と整合する。又玄関付近の木製ドアーを通って塗装室入り口の塗料置き場,ポリタンクなどの可燃物により,塗装室に急速に侵入したと考えられる。但し,2階から激しく炎が噴出していたとき,事務所内は白煙が充満し,奥に火が見えた,という事実と整合性がない。
B  エアドライヤーがトラッキングの原因であると仮定すると

木製の床と,多少は飛散していたであろう塗料などはすぐに引火し,そばにおいてあった塗料・溶剤などに引火したと考えられ,かなり急速に塗装室を焼くので,塗装室のフロアーが全面的に失われているという事実と整合する。

塗装室入り口付近に保管してあった塗料,シンナーに引火すると2階の床を焼くルート,及び階段を通って2階に広がったと考えられる。

塗装室は窓が塗装ブースで遮蔽され,外からは内部の火が発見されにくいような密室状態である。

以上の整合性から,トラッキングを起こした機器は冷蔵庫ではなく,塗装室のエアードライヤーである,と結論することが出来る。

ケース2の詳細な説明

本件においては、主たる塗装対象が木工製品であることが特徴的であり,使用されている塗料は主としてウレタン塗料であり,当然ステイン塗料も使われていた。

これらの塗料には,乾燥時間調節のため,乾性油が配合されている。乾性油は,空気中の酸素と結合して酸化硬化し,その時発熱を伴う化学反応が起こる。

これら乾性油を含むステイン塗料,ウレタン塗料をふき取ったウエスを空気中に放置するとかなりの頻度で自然発火することが広く知られている。着色用ステイン塗料は,布にしみこませて木材に塗布する。この布の処理を誤ると発火することがある。

塗装ブースもまた同じ問題を抱えている。本件のブースは,排気を水をくぐらせてクリーニングする方式であり,水が乾いた後にウレタン塗料粉末が残り,これが発火するとダクト内にへばりついた塗料粉末などに引火する。これらの塗料は粉末状になっているので酸化反応が起こりやすい上,初夏の温度上昇時には反応が早くなる為,本件においては自然発火が起こりやすい状態にあったことは容易に推量できる。

一部でも自然発火した布やフィルターは燃えるのに理想的な状態にあるため,かなり急速に燃え広がる。これにより,飛散した塗料,木製の床,ごく近くに保管された塗料やシンナーなどにより発生した大きな炎は2階の床に延焼し,2階の窓から炎を噴出した,と考えられる。

又,床や備品の木製品を燃やした炎は,入り口付近の塗料を爆発させて,階段を上昇し同時に事務所に侵入したと考えられる。

事務所が遅れて延焼したことは,石油ストーブ周りの床以外に床の抜けた様子が,塗装室に比べて軽微なこと,事務所を囲む外壁が比較的多く残っていることから火元でないことと整合する。

参考公的資料

  • 控訴状(平成18年2月10日)
  • 控訴理由書(平成18年4月4日)
  • 判決(平成17年11月15日)
  • 火災原因判定書(乙1号証)(平成16年2月29日)
  • 実況見分調書(第1回)(乙2号証)(平成16年6月18日)
  • 質問調書(第1回)(乙3号証)
  • 質問調書(第1回)(乙4号証)
  • 質問調書(第1回)(乙5号証)
  • 質問調書(第1回)(乙6号証)
  • 出火出場時における見分調書(乙7号証)(平成16年6月7日)
  • 警防活動状況報告書(乙12号証)
  • 第5小隊(火災)出動記録(乙13号証)
  • 速記録(平成17年9月8日 第3回口頭弁論)
  • 準備書面・陳述書 各種
  • (株)******** 報告書(乙56号証)(2006年4月26日)

参考資料

  • ****鑑定センター **鑑定人鑑定書(乙14号証)(平成16年7月9日)
  • ****鑑定センター **鑑定人質問回答書(乙58号証)(平成17年4月27日)
  • **調査事務所 ****** 調査報告書(乙31号証)(平成17年5月30日)
  • (株)****リサーチ 報告書(乙56号証)(2006年4月26日)
  • 電気系統図 配置図 写真
  • 電気設備図 電話配管 照明器具・換気扇結線図 
  • 1階平面図 立面図・断面図 平面詳細図 断面詳細図