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火災実例鑑定報告書技術士大藪勲鑑定人趣意書原子力鑑定技術技術鑑定会2007

火災実例鑑定報告書

B.電気系の解説

1.事実確認の見解

(1) 絶縁常時監視装置の発信履歴について

  • ア) 第一報は絶縁常時監視装置として,検出器と発信器の二つの器具で構成されるが,そのうち事務所に設置してある発信器に関するものである。その動作電源喪失のステータスを,発信器自らバッテリーに切り替えた後,発信(21時11分27.5秒:NTT通話開始時間)し,**電気保安協会の**監視センターの着信データ記録には,21時12分の着信時間(表示)である。
  • イ) 第二報は,高圧受電設備内(キュービクル)に設置してある絶縁常時監視装置の検出器の検出データに関するものであり,絶縁監視漏洩電流Igr(地絡故障電流のうち,電路の対地静電容量による対地充電電流を含まない電流であり,かつ,電灯回線,動力回線全ての系統の絶縁監視電流の合計である。それは三相変圧器二次側デルタ巻線の一端のB種接地線と,単相変圧器二次側の中点のB種接地線の合成点に,検出用変流器を挿入する方式であるため「説明書による」)が50mA以上である事を検知し,50mA以上のIgr電流(これは地絡故障電流のうち電路の対地静電容量による対地充電電流を含まない電流であり,かつ,電灯回線,動力回線全ての系統の絶縁監視電流の合計である。それは三相変圧器二次側デルタ巻線の一端のB種接地線と単相変圧器二次側の中点のB種接地線の合成点に,検出用変流器を挿入する方式であるため「説明書による」)が50mA以上である事を検知し,5分を超えて継続しているとして,“絶縁・警戒B”の信号を発信器に送り,それを受けた発信器は信号を監視センターへ発信(21時15分9.5秒)し,監視センターが信号を受けて,着信データを記録したのは21時16分(表示)である。
これは,**電気保安協会の絶縁常時監視装置の説明書に書いてあるように,即ち,発信器は
  1. Igr絶縁検出器の信号を検出すると自動ダイヤルで**電気保安協会を呼び出し,電話回線に接続。
  2. 回線接続後,受信器からの応答信号を受信すると入力データの送信を開始。
  3. 受信器からの受信確認信号を受信すると回線を復旧して送信を終了。
  4. 発信器の伝送する信号は“警戒発生”と“警戒連続”
  5. 受信側回線が話し中の場合,発信器は最高17回まで再発呼を行う。
  6. 回線を共有する電話機の通話優先機能を有している。
以上のように着信までの時間は伝送時間以外の不確定な時間が必要である。 従って、“50mA以上の漏洩電流が発生し5分を超えた継続した場合”の5分は電気保安の観点から絶縁常時監視装置システムとして上記の時間(伝送時間)を含んだ5分が好ましいが,5分の時間カウンターの精度は上記の伝送時間の不確定さを考慮すればシステム全体の設計思想からみて高精度のものでなく,ある程度の誤差があるものと思われる。
    
尚、電流Igrが突然50mAに立ち上がるのは、電気現象的に想定しがたい。従って、さらに5分前と称される時間より前の時間において、漏洩電流は発生していると想定される。
  • ウ)第一報は上記の如く,発信器の動作電源喪失のステータス報告であり。
    発信器は事務所入口玄関面壁の北方向の屋外、そして発信器の電源は事務所北側の屋外コンセントに接続されている。この屋外コンセントは甲40号証(電気設備図)に示されているように、事務所内のL2分電盤から配線された系統に接続されている。さらに、この系統は事務所および塗装室の照明器具、コンセント等に配線されている。

    この系統は事務所一階の階段の横近くに設置のL2電灯線分電盤の中で,電灯線配線として6系統(予備2)に分岐されている内の一つの系統である。

    このL2分電盤の中の構成は甲40号証電気設備図に示されているように,短絡,過電流保護として8系統それぞれにブレーカー”B”が敷設されている。 そして漏電保護として系統一括して漏電ブレーカー”ELB”敷設されている。

    従って,発信器の動作電源喪失の要因が,短絡事故か過電流であれば6系統の内,1系統の電灯線が遮断される。また漏電事故によるものであれば,6系統全部のL2分電盤内の電灯線系統が遮断される。

  • エ)第二報は上記の如く,”絶縁・警戒B”の信号を“ 50mA以上のIgr電流が5分を超えて継続している”として,発信,受信されたものである。

    このIgr電流は上記したように,絶縁常時監視装置が検出する絶縁監視漏洩電流である。この絶縁監視漏洩電流Igrは,地絡故障電流のうち電路の対地静電容量による対地充電電流を含まない電流であり,かつ,電灯回線,動力回線全ての系統の絶縁監視電流の合計である。

    それは三相変圧器二次側デルタ巻線の一端のB種接地線と,単相変圧器二次側の中点のB種接地線の合成点に,検出用変流器を挿入する方式であるためである。
    従って,L2分電盤の漏電ブレーカーが事務所の電灯線系統を遮断しない間,すなわち,漏洩電流が30mAを超えない間は,電灯線系統の漏洩電流もこのIgrに含まれる。

    また発信器が接続されている電灯線系統で,何らかの事由による過電流または短絡電電流が生じ,当該系統をブレーカーにより遮断しても,他の5系統は遮断されず,それらの回線で何らかの別の事由で漏洩電流を生じ,その総和が30mAを超えなければ,この漏洩電流もこのIgrに含まれる。

    もちろん動力線系統に何らかの事由で漏洩電流を生じれば,それぞれの各動力線系統の漏電ブレーカーの設定値を超えない漏洩電流の期間はIgrに含まれる。

(2) 第一報と第二報の事実にもとずく理由により,塗装工場での火災発生の根拠

  • ア) 控訴理由書の8ページ(4)3行目[21時11分台に「発信器電源喪失」という形態の異常信号が発報されているところ,この報知システムと発報信号を管理する機関(電気保安協会)では,この信号は漏電を示すものではないと明言し,考えられる事態としては,漏電以外の事由により発生した火災の火炎が発信器本体あるいは発信器電源コードを焼殷した蓋然性がもっとも高いと評論しているものであり,その信用性は高く,これに反する証拠は認められていないから,21時11分には既にこの発信器を焼殷するほどまでに本件建物火災が昂進していたことを示す重要証拠である。]

    とあるが,第一に「発信器電源喪失」という保安協会で受信された信号そのものは漏電という事象を示すものではないが,その電源喪失にいたる要因は漏電を否定するものではない。発信器の電源回路に接続されている電気系統配線または,その電気系統配線に接続されている電気器具での漏電→過熱→過電流→短絡→ブレーカートリップ(電源喪失)が想定される。勿論,絶縁劣化→過熱→過電流→短絡→ブレーカートリップ(電源喪失)も想定できる。

    第二にアンダーラインに関して発信器(電源コード)を焼殷するほどまでに火災が昂進していれば仮に第一報は発信できても,その4分後までには発信器は焼損し,なおかつ,信号を保安協会に伝送する電話機および電話線は焼損し第二報は発信出来ないこととなる。電話機の電話線がショートすれば発信器は発信できないこととなる。

    従って,火災の火炎が発信器本体あるいは発信器電源コード焼殷して,発信器の電源喪失に至ったものではないと言える。

  • イ)乙第7号証「出火出場時における見分調書:消防署**出張所第5小隊長の見分
    2ページ(1)3行目[出火建物東側(加工棟側)の北側二階部分の窓上部より火炎が噴出し,その火炎は屋根より3〜4メートルの高さに上昇していた。
    北側の一階部分の延焼状況は窓越し(建物北側の一階事務所窓から)に見分すると奥の方で延焼している状況で,一階全体が火炎に包まれている状況にはなく、玄関側及び北側の外壁からは炎の噴出は見分されず,またいずれの開口部の戸も閉まっている状況であった。]とあり,また,
    2ページ(2)8行目[出火建物西側の堤防上を通って南側に向かうが,火は建物全体に延焼しており,塗装室付近では外壁の中間部分が焼け落ち付近の雑草が燃えていた。]とあり,

    この見分の時刻は,21時33分現場到着時間(乙第13号証,乙第12号証)の後である。
    従って、この見分の時刻において,一階部分の延焼状況は奥の方で延焼している状況で,一階全体が火炎に包まれている状況にないことは,発信器の第一報が発信された21時12分(約30分前)には発信器や電源コードを焼殷する火炎や火災は想定できない。

  • ウ)上記 ア)項,イ)項より,発信器が第一報と第二報を発信した事実に鑑み事務所及び事務所入り口での出火は想定できない。塗装室は出火後,早い段階で外壁が焼け落ちていた事実により,塗装室から出火があったとすることと整合性がある。
  • エ)乙第56号証に添付の絶縁常時監視装置及び警報発生時の応動に関する説明書の第1ページの1.装置の構成に記載されているように,そして特に「当事業場」という図において,検出器のCTが動力線用変圧器と電灯線用変圧器のB種接地線の結合された接地線に挿入されている。

    このことは動力線の漏洩電流と電灯線の漏洩電流が足し算されて検出されることを示している。
    即ち発信器の第二報で云々されている50mAという電流の値は電力線の漏洩電流と電灯線の漏洩電流が足し算された結果の数値である。

    そして,さらにこの電流は工場内全体の電気設備の絶縁状態を監視するために,低周波の監視用信号電圧が接地線を介して注入され,電力線と電灯線の漏洩電流が接地線に還流してくる電流である。
    ところで乙第56号証に添付してある「解説」の2ページ[電気火災のメカニズムと危険検知・送電遮断装置の効用]の2.項において

    「発信器電源の送電遮断を示す第一報では,30mAを超える漏電が発生してL2配電盤に設置の漏電ブレーカーが働いて電源を遮断したか,過電流,短絡などの原因で規定量以上の電流が流れて同配電盤内の過電流ブレーカーが働いて電源を遮断したかのどちらかである。」

    としているが,

    もし,漏電ブレーカーが働いて第一報の「電源喪失」の信号を発信したものとすれば,電灯線の漏電電流30mAを生じる漏電箇所が21時12分に除去され,上記に示す絶縁監視装置の検出漏洩電流50mA以上から漏電電流30mA相当分が21時12分に減じられることになり,第二報の21時16分から遡って5分間継続して検出漏洩電流が流れる可能性がないことになる。

    従って、漏電ブレーカーが働いた可能性はない。(但し漏電ブレーカーが動作する電流に至らない電流が無いとはいえない。)従って,発信器の電源が接続されている電灯線の過電流ブレーカー動作したものと思われる。それは当該電灯線の配線か接続されている電気器具の絶縁劣化→加熱→過電流→短絡→過電流ブレーカートリップ→電源喪失を生じたことが容易に推察できる。

    次に同「解説」の2ページの下から3行目「これは第一報を発信した時間21:11.27.50よりも1分以上も前から動力線系統で50mAを超える漏電が始まっていたと考えられるのは前述の通りである。」としているが,

    上記に述べたように,動力線系統のみで50mAを超える漏電と限定出来るものではなく,電灯線の漏電30mA相当を超えない(漏電ブレーカーが動作にいたらない範囲)の漏洩電流と動力線系統の漏洩電流が合算された漏洩電流である。

     

  • オ)以上の ウ)項、エ)項 から推定できることとして
  1. 電灯線系統の塗装室の照明器具,コンセント,はL2分電盤のブレーカーを通って配線されている。甲40号証(電気設備図)に示されている通り。

    この塗装室のコンセントに接続されている電気器具(換気扇),あるいはエアードライヤー,または塗装室内の電灯線の配電線等において,絶縁劣化(トラッキング等により)→加熱→発火→火災発生し,電灯線系統の配線や接続された各電気器具が焼損を受け短絡を起こし,過電流ブレーカーがトリップし電源喪失が生じたことが推定できる。この焼損の際,漏電も発生する事は当然あり得る。これが絶縁監視装置に検出される電灯線の漏洩電流となるものである。

    よって,発信器の電源喪失が塗装室のコンセントに接続されている電気器具,または塗装室内の電灯線の配電線等において,絶縁劣化(トラッキング等により)→加熱→発火→火災発生し,電灯線系統の配線や接続された各電気器具が焼損を受け短絡を起こし,過電流ブレーカーがトリップし電源断が発生したこととなり,“電源喪失”の第1報を発信したものと想定することができる。

  2. 一方、塗装室の動力線の配線は2階天井裏へ引き込まれ,2階和室天井裏を通り,塗装室内部の配電盤(甲45写真)へ。配電盤から再び天井裏へ行き塗装ブースのモーター部分へ。また別に配電盤から塗装室内配線によりコンプレッサーへ配電されている。これら動力線は電線管にも挿入されておらず露出して塗装室内を多面的に配線されている。

    a)で発生した火災により,これら動力線の配線が次々に焼損して行くことがじゅうぶん想定できる。これらの動力線が焼損して行く際に、漏電現象も当然発生する。

    一方、塗装室の動力線の分電盤や動力線配線の絶縁劣化による、過熱→漏電→

    発火による火災の可能性もあり、この際に漏電現象も発生する。

    これが絶縁監視装置に検出される動力線の漏洩電流となり, a)項の電灯線の絶縁監視装置に検出される電灯線の漏洩電流に足し算されるものとなる。

  3. 時間関係の推察

    a) 項の絶縁劣化(トラッキング等により)→加熱→発火→火災発生し,電灯線系統の配線や接続された各電気器具が焼損を受け短絡を起こし,過電流ブレーカーがトリップする過程において,漏電現象(絶縁劣化→漏電)は火災が発生し短絡事故を起こしブレーカーがトリップする迄の時間より早く発生し,漏洩電流が流れることになる。b)項の焼損していく過程の動力線の漏洩電流も上記ブレーカートリップより早い時間に発生することが想定出来る。

    このことより,第一報の発信時刻21:11.27.50より若干早い時刻に絶縁監視装置に検出される漏洩電流が50mAを超えて検出されたこととも推察できる。但しこの時刻は絶縁監視装置の検出器の5分タイマーの精度(システム上高精度であること前述の通り疑問)に左右されるであろう。

  • カ) 以上により(塗装室での電気火災の発生により)第1報と第2報の発信した信号の事実が裏付けられるものである。