裁判対応の電気機械(火災)事故技術鑑定・PL事故技術鑑定・自動車(火災)事故工学鑑定・火災事故保険裁判技術鑑定・特許同一性裁判及びそれらの複合案件の技術鑑定・工学鑑定を技術鑑定会を中心とする多分野専門家チームで行います。
火災保険の支払い要求に対し、支払い拒否がなされている場合の裁判において、請求者側に立った火災原因鑑定を、専門家チームで行います。初期費用を抑えるため、成功報酬と組合せてお引受けすることもできます。(技術士:大藪勲)
お問合せは:
メールでのお問合せ
トップページ大藪勲技術士事務所概要取扱分野科学技術鑑定とはご依頼方法Q&A関連リンクご質問・ご相談
火災実例鑑定報告書技術士大藪勲鑑定人趣意書原子力鑑定技術技術鑑定会2007

火災実例鑑定報告書

2.検討課題

(1)課題 1

乙56号証の解説に記載された「動力線からの漏電が電灯線の発信器電源喪失よりも1分以上早い」という内容は妥当なものか。
例外として「発信器の入っているL2の配電盤よりもキュービクル側で電源喪失が起こった場合」という**電力配電部の専門家の指摘があったが,本件事故の場合その可能性の有無。
回答

一つは「動力線からの漏電が電灯線の発信器電源喪失よりも1分以上早い」という内容は妥当なものか。について、
火災発生状況によって,発信器の電源断は決定するものであり,複合的要因を含んでいる。一方漏洩電流検出回路は低周波の別回路であり,この漏洩電流が50mAを超えると言うことと,電灯線の断による発信器の電源断という現象とは直接の関係は無い。従って動力線からの漏電と電灯線の発信器電源喪失と言う現象は同じ時間軸において議論出来ない。

ここで言う“動力線からの漏電”は電灯線の漏電ブレーカートリップしたために漏電が動力線のみと決めつけられているが矛盾がある。(下記詳細)
即ち“動力線から”に妥当性がないこと。及び“第二報から逆算すれば”という時刻であり,タイマー5分を使って逆算したものであり,タイマーの精度に依存するもので正確な時間は言えない。

詳細は上記 1.事実確認の見解 (1)イ),ウ)の説明の通りであるが,

すなわち,絶縁常時監視装置の検出器の検出用CTは動力系統と電灯線系統の漏電電流の和を検出する方式になっている。 第二報の50mA以上のIgr電流は動力線の漏電と決めつけられない。 それはL2分電盤の漏電ブレーカーELBが遮断して電源喪失になったと決めつけると,遮断除去された電流が減じ,5分間継続があり得なくなる。
従って,L2分電盤の当該電灯線(発信器が接続されている電灯線)の過電流ブレーカーが遮断して電源喪失にいたったとする方が妥当である。

(株)******* 報告書(乙56号証)解説の矛盾点がある。キュービクル内に漏電検出器があるように、しかも30mAと50mA とは保護協調を取っているように書いてあるが,あるのは絶縁常時監視装置の検出器であって,単なる測定器である。低周波の別電源を注入して測定しているものである。

つぎに例外として「発信器の入っているL2の分電盤よりキュービクル側で電源喪失が起こった場合」と言うことの**電力殿の指摘と本件事故の場合その可能性の有無。について

キュービクル側の絶縁常時監視装置の検出器の電源が喪失すれば、この絶縁常時監視装置の機能は停止する。すなわち第二報は発信できなくなる。

(2)課題 2

乙56号証の解説「動力線から漏電が電灯線の発信器喪失よりも1分先」が正しい場合,本件火災の原因の可能性の1つとして漏電,ショート,トラッキング,電線の発熱などの電気的事故は考えられるか。
回答

もし「動力線からの漏電が電灯線の発信器電源喪失よりも1分以上前」が正しいとするなら,とあるが正しいとは考えられない。
周囲条件を考察して、前項課題にて述べたとおりである。
塗装室においてという条件において、動力線系統の電気的事故(漏電、ショート、トラッキング、電線の発熱等による)による火災が発生した可能性は、発信器からの第一報、第二報が発信された事実と整合する。

(3)課題 3

平成18年6月13日の法廷において「出火場所が1階の玄関の床面近くなら,1階天井裏や壁面に電灯線が入っているのに,2階耐火ボード裏のグラスウール断熱材のさらに裏側の動力線が,1階や2階の電灯線よりも先に漏電するのはおかしいのではないか?」という質問に対して,
**鑑定人は「火災の状況によって起こりうる。グラスウール断熱材は火災の時はよく燃える。」という主旨の答えをされた。1階の天井裏の電灯線や電話線が火災による漏電やショートを起こさないうちに,2階天井裏の動力線から漏電するようなことは起こりうるのか,起こりうるとすればどのような場合か。
動力線からの漏電の場合,むしろ塗装室での電気事故によって起きる可能性が高いのではないか。
回答

事務所入口での火災発生の場合はあり得ないであろう。

その理由は、
事務所入口で発生したのであれば,1階の天井に張りめぐらしてある1階用電灯線の配線が,火災による焼損により漏電現象を次々に、先に起こしていき漏洩電流も増加し,過電流から短絡電流へと移行していくと考えられる。なお,電灯線・動力線がDVケーブル(地上8mほど)にて事務所倉庫棟に引き込まれ,動力線は事務所2階部分の天井を経て塗装室の配電盤へ入りコンプレッサー,塗装ブースへと配線されている。事務所入口からの火災であれば、当然一階の天井が焼け,次に2階の天井が焼けるのが順序であると思われる。
また**鑑定人の「グラスウールは火災のとき良く燃える」というのは**鑑定人の勘違いと思われる。グラスウールは、本来不燃物であり、燃えるのはこれを包んでいる包装紙のみである。表面の包装紙が仮に燃えたとしても、H種、F種の被覆がされている動力線に引火することはまずない。すなわち、これらの電線は、自己消火性ないし難燃性の塩化ビニールで作られ、紙一枚で着火させることが難しい上、密閉された壁の中で外板または中板に押し付けられた状態では、包装紙自体が燃え上がることが難しいからである。

(4)課題 4

当組合の動力線の過電流ブレーカーは、キュービクルでは400A,はんせいき館(乾燥棟)の配電盤では125Aと150Aの過電流ブレーカー,225Aの過電流ブレーカー兼用の200mAの漏電ブレーカーが配置されている。塗装室内配電盤にはヒューズ入りのコンデンサがあるが,これ以外に動力線のヒューズはない。火災後の点検では,150Aの過電流ブレーカーが電気を遮断した状態でした。
200Vの三相動力線で50mA以上225A以内、50mA以上125A以内の漏電、ショート、電線の発熱、トラッキング現象等の電気的事故の可能性の有無。
回答

火災後の点検ではんせいき館(乾燥棟)の配電盤で150Aの過電流ブレーカーが電気を遮断(トリップ)の状態は火災中に動力線がショートを起こし短絡現象を起こした結果です。
50mA以上225A以内とか、50mA以上125A以内とか言われていますが、50mAと言うのは漏電または漏洩電流のことであり大地を通して流れる電流であり、225Aと125Aは短絡電流(ショート)のことであり、同じ次元の範囲で捉えられません。
これらの125Aや225Aの電気定格は電気回路を保護する機能を有する過電流ブレーカーの定格を表すものです。実際の動作は動作時間特性を持つものであります。これらのブレーカーを付加しているから電気火災が絶対防げるか
と言うと、そうも言えません。トラッキングや接触不良、絶縁劣化などによる発熱現象は上記保護機能のブレーカーの定格以下の範囲でも時間との関係で火災事故につながる可能性を有しています。
50mAは漏電している電気器具に人間が触れて感電する生理的限度から決められているのが実状です。これも時間との関係で事故へ波及(短絡事故へ波及もある)することもあります。
絶縁常時監視装置はこの漏電を早めに検知し、事前に事故を予防するために設定された値が50mAであるわけです。

(5)課題 5

塗装機メーカーの**塗装機や機械販売会社の**産業からは、塗料などの自然発火の可能性を指摘されましたが、**塗料の納品書にある当組合の使用している塗料の種類、使用量からみて、工場休止中の夜間にそのような事故の発生する可能性の有無。
回答

火災原因の推定の項目に記載

(6)課題 6

当組合の配線位置、被害動産位置の場合に、動力線からのショート、トラッキング、発熱などの電気的事故から、シンナーや塗料がある場所への引火による火災の起こる可能性の有無。
回答

塗装室のエアドライヤー(昭和61年より使用)が疑われる。
コンセントにより,数年間常時接続になっている機器はトラッキングが発生する確率は大きい。特に塗装室雰囲気においてはそれが助長される。

(7)課題 7

**鑑定人が乙第14号証で出火場所とした,事務所玄関上がり口付近には,乙第2号証の消防署実況見分調書写真No.60に撮影されている通り,下が中空の足つきの木製の敷き台が燃え残っている他,階段も炭化して3段写っています。上部の鉄骨が曲がるほどの激しい火災が9時16分頃から10時36分まで1時間20分も続いたのに,出火場所に木製の可燃物が残ることはありえるか。
回答

通常、火元には可燃物はほとんど残らない。火元では燃えやすいものが先ず燃えて、そのために火勢が強くなり、強くなった炎は上方または横方向に進展していく。その意味では**鑑定人による事務所方向への進展図は正しい。
但し、強くなった火勢が塗装室ドアを破って二階へ、及び事務室へ向かった場合には低い位置にある可燃物を燃やさないことがある。すなわち、強い火勢は天井付近を通過し、上から可燃物を燃やす。密閉空間では、地面近くは酸欠状態になって燃えにくいからである。従って**鑑定人による解析の中で、出火地点の記述は焼け残った可燃物の実態と整合しない。
このことは、階段の下側数段が形状を留めていた事実によっても説明される。火元であれば、火勢がそれほど強くない状態で下側から燃えていくが、火勢が十分に強い状態で入り口付近が燃えたとすれば、炎は上部を通過するから上側から燃えていくはずである。其の場合は下段は残りうるのである。
本件の火元が塗装室であることを示唆している。